冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そうして、今朝、背広を着てしまったのも。

 けれど。

 流れ出した思考や記憶は、思い通りにスタートとストップがかけられない。
 芋ヅル式に、自分の行動の全てが明かされてしまう。

 ドアのところで、グズグズしてしまって、何も探しているものなどなかったのに。

 カギまでかけて。

 ネクタイを。

 ネクタイを、シュウに見られる前に――また解いて。

 客間を用意させて。

 車を勝手に乗って帰って。

 それから、それから――

 ガタッ。

 カイトは。

 いまけっ飛ばしたソファに、よろけるように呆然と座り込んだ。

 記憶が、誰一人と彼の味方をしなかったのである。

 本当にたった一つすら。

 そうして、頭をよぎるのは彼女だ。

 食事の時、「うめーよ!」と怒鳴ったカイトに笑った顔が。

 ざわっと。

 うなじが冷たく騒いだ。イヤな感じだ。

 こんなことは、計算になかった。
 今頃彼は、自分の記憶に一人悦に入って頷いているハズだったのだ。

 『ほれ見ろソウマ、やっぱりおめーの言ったことは、デタラメだったじゃねーか!』と。

 その予定だったのだ。

 しかし、しかし、これでは、まるで――

 まるで。

 頭を抱えた。

 何ということか。

 カイトがいま駆け足でたどった記憶の全てが、ソウマの味方をしていたのだ。

 全員が、自分に向かって舌を出している。

 信じられない事態だった。
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