冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、魂が抜けかかっていた。

 服も着替えないまま、ぼーぜんとソファに横になって、天井を見る。

 心と身体が、バラバラになっているかのような気分だったのだ。

 否定をする心がある。
 ソウマの発言に、全て「ノー!」と騒ぎ立てるヤツだ。

 けれども、それと逆さまのことをし続けている心がいた。

 メイを抱きしめ、大金を払い、借用書を破って家に連れてきて、そうして側においておきたがる身体。

 その二つのせめぎあう存在に、初めて同時にカイトは向き合ったのだ。

 ワケが分からなくて、頭がショートしそうだった。
 いや、もう火花とか煙くらいは出ているに違いない。

 数少ない笑うメイが、あの茶色の目が、カイトを見ている。

 心の中に、くっきりと彼女の映像が残っていた。

 たとえ、同じ空間にいなくても、こんなにも鮮やかだ。

 オレは…。

 腕を上げて頭を抱える。

 いや、いまソファに転がっている体勢を考えたら、顔を覆うという方が正しいのかもしれない。

 心のメッキがはがれていく。「ノー!」と書きつづられていくメッキが、パリパリと。

 出てきたのは。

 黒い石だった。

 ずっしりと重く、全然綺麗じゃない。まるで墨で出来たような石。

『こういう石が、本当に中心まで黒いか確認してみたくならないか?』

 ソウマの家の居間に、何故か黒い石が飾ってあった。

 彼らが結婚してすぐくらいに呼ばれた時の出来事だ。

 どうせ中まで真っ黒だぜ、とカイトは最初からバカにしていた。

 けれども、ソウマはニヤっと笑って、その石をカナヅチなどの道具を用意してまで割ったのだ。

 ガバッ!

 カイトは、驚いて飛び起きた。

 呆然とした意識と記憶が混同して、いきなり頭の中に現れたものにビックリしたのだ。

 黒く汚い石が割れて出てきたのは――チョコレート色の結晶だった。

 外側から見ても分からなかったのだが、中には別のものが隠し込まれていたのである。
< 232 / 911 >

この作品をシェア

pagetop