冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 大学中でも、ふらっと旅に出たまま行方をくらませたりしていたソウマが、どこぞの国で拾ってきたものらしい。

 放浪癖のある彼に、ハルコが『しょうがないわね』とため息をついていたのを、カイトは覚えている。

『中に何が入っていたのかなど、大学時代にX線でもう調査済みです。しかし、割って確認しないと言っていたのに…ソウマ、あなたは気まぐれですね』

 チョコレート色の結晶が出てきてカイトを脅かすのに成功した男に、シュウが冷ややかにツッコミを入れた。

 そんな記憶に、カイトは飛び起きてしまったのだ。

 クソッ。

 眠っていたワケではない。

 夢を見たワケではない。なのに、シャツの下に汗をかいていた。
 まるで、化け物にでもとりつかれているような気分だ。

 何もかもが、思い通りにならないのである。

 自分の心や身体さえも。

 心のメッキがはがれて、黒い石が出てきた。

 でも、カイトはそれを割れないでいたのだ。

 割って、本当に中まで黒い石かどうか確認出来ずにいる。

 割って、もし――

 それが、怖いのだ。

 もしも、中が黒くなかったら。

 こんなのは、自分らしくなかった。

 知りたいことがあったら、それを壊すことになろうとも、何でもしてきたハズだ。
 なのに、今更何を怖がっているのか。

 しかし、そのままおとなしく葛藤してはいられなかった。

 トントン。

 ビクッッ!

 カイトは、扉のノックに身を竦ませた。

 シュウのノックというには事務的ではなく、ソウマのノックというには――いや、ソウマのノックなどもう覚えてもいない。

 とにかく、シュウ以外が来たのだ。

 誰だと聞く前に。

「メイです…」

 勝手に――ドアがしゃべった。
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