冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「ああ、ごめんなさい…勝手に開けてしまって」

 カイトが睨んでいるように見えたのだろうか。

 ぱっと茶色の目が飛び退いた。
 それから、ゆっくりときちんとドアが開く。

 彼の心など、微塵も気づいていないメイは、恥ずかしそうにワインを持っていた。

「あ…あの、ワインを持ってきました。ソウマさんが、渡してくれって…」

 甘い、赤のワイン。

 しかし、彼女の口から他の男の名前が出ただけで、甘い味の記憶よりも、辛い痛みに胸がしめつけられる。

 カイトは、ぎゅうっと眉を寄せた。

 気づいたからどうなるというのか。

 カイトは、たったいま解けたばかりの答えを持って、どうしたらいいのか分からないままだ。

 ワインを直接渡した方がいいのか、どこかに置いた方がいいのか――彼が無反応なせいで、メイは戸惑っていた。

 落ち着かない首の動きで、きょろきょろする。

 ギシッ。

 カイトは、ソファから立ち上がろうとした。

 じっと。

 じっと、彼女を見た。

 立ち上がりながら、背もたれのてっぺんに手をついて、身体をひねって。

 ずっと、視線を彼女からそらさずにいた。

 その行動で、カイトが直接受け取ってくれるとでも思ったのだろう。

 メイは、嬉しそうに笑った。

 そこで。

 カイトは、自分の中が爆弾だらけなのを知ったのだ。

 頭のてっぺんからつま先まで、とにかく火薬でひしめいているのを自覚した。

 それを爆発させるボタンの群れの中で、さっきの猫がニャオンとのどかに鳴いている。
 あくびついでに触ったボタンで、またどこかで爆発が起きた。

 立ち上がったままカイトは動けなかった。

 彼女を見つめた状態で、これ以上の過呼吸を押し止めるので精一杯だ。

 今朝まで自由に出入りしていたカイトの部屋なのに、彼女はちょっと頭を下げると、たたたっと中に入ってきた。

 そうして、ソファを隔てたところまで近付いてくる。

 まだ呆然としたままなのに。

「はい…」

 また――微笑んだ。

 ワインを彼に差し出しながら、自分がすごくいいことをしたかのような表情だ。
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