冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトはぎゅっと唇を閉じた。

 すーっと片手を伸ばした。

 そこに、メイがいる。

 彼の心の中にある褐色の石だ。
 それが、こんなに近くにあるのだ。

 指を伸ばす。

「…!」

 しかし、我に返った。

 メイが、伸ばした手にワインの瓶を触れさせたからだ。

 そこで初めて、カイトは自分がそれではなく、彼女に触れようとしていたことに気づいた。

 同時に。

 目を見開く。

 自分が、昨日、何と彼女に宣言したかを思い出してしまったのだ。

 オレは、おめーに何もしねぇ。

 記憶違いでなければ、カイトは間違いなく彼女にそう言った。

 なのに、いま自分は何をしたかったのか。

 好きだと気づいた途端――何が何でも、メイという女を自分のものにしたい衝動が、はっきりと身体の中に芽生えたのだ。

 ワインの瓶を掴むしかなかった。

 あの約束をした翌日。

 たった一日で、自分はそれを破りかねなかった。

 彼女はワインを受け取ったカイトに、だいぶ慣れてきたのだろうか、もう一度微笑みを浮かべる。

 こんなに間近で。

「それと…あの…」

 その顔が、一回、ぱっと下げられた。

 カイトから見えるのは、黒髪の頭。

「あの…お部屋をありがとうございました」

 すぅっと、ゆっくりと上げられる顔。

 しかし、そのチョコレートの目の中にあったものは――感謝だった。

 カイトは、頭をブン殴られたようなショックを覚える。

 そうなのだ。

 たとえ、どんなにカイトが彼女のことを好きだと自覚したとしても!
 はっきり分かって認めたとしても!

 メイが、彼に抱いている感情は、感謝なのだ。
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