冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●52
 頑張らなくちゃ。

 メイは、寒い廊下を突っ切って部屋まで戻ると、小さな拳を固めた。

 この場合の頑張るとは――カイトの役に立つためのことである。
 ハルコがいない時に、彼に重宝がられる存在になりたかったのだ。

『おめーがいてくれてよかった』

 そう思ってもらいたかった。

 勿論、彼の性格からしたら、その言葉を聞くことは不可能に近いだろう。

 しかし、何もしないでいる役立たずよりは、たった一つでも何か出来れば、自分の中での心苦しさが違うのだ。

 それに。

 普通は、好きな人のために何かしたいと思っても、いろんな制約があってなかなか出来るものではない。

 しかし、メイには現在取り立てて仕事がない。
 それに、同じ家に住んでいるのだ。

 これで何も出来なければ、本当の役立たずだ。

 きっと。

 しかし、いろんなことをすると、カイトは怒鳴るだろう。

 いままでの経験から、それは分かっていた。

 しかし、ソウマやハルコやシュウへの態度で、それが珍しい行動でないことが、統計学上、明らかになったのである。

 カイトは、気に入ってる相手にも分け隔てなく怒鳴るのだ。

 その事実で、随分とメイの心は軽くなった。

 彼のためになることは、怒鳴られてもしてもいいんだと――許されたような気分だったのである。

 おかげで、心が軽くなった。

 何千万という価値のある女に、自分はきっとなれはしないだろうけれども、定期積み立て預金のように地味な額には、きっとなれる。

 だから、一生。

 彼のための家政婦でいたってよかった。

 そうしたら。

「一生…側にいられるもの…」

 ふっと。

 思いが口からこぼれて、慌てて手でふさぐ。

 びっくりした。

 言葉に出した意識はなかったのだ。本当に、ぽろっとこぼれ落ちた言葉。
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