冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 シュウやソウマが、ましてやハルコがこんなノックをするハズがない。
 勿論、ハルコがいるわけはないのだが。

 カイトとはさっき別れたばかりだ――ワインを渡しに行ったので。

 なのに、わざわざ部屋を訪ねてくるなんて。

 何だろう?

 メイは、慌ててドアに近付いていった。

 誰かとも聞かなかったし、相手もしゃべらなかった。

 けれど、メイはもう確信があったので、ドアを開けた。

 カイトが――いた。

 予想ピッタリだ。

 メイは胸をドキドキさせながらも、嬉しかった。

 しかし、その表情をすぐに曇らせてしまう。
 カイトに、覇気を感じなかったからだ。

 いつも感じる、すぐ怒鳴りそうなオーラは、いまはどこにもない。
 そういえば、さっき部屋を訪ねて行った時もそうだった。

 あの時は、まだソウマとケンカした機嫌が直っていないのだろうと、彼女は理解していたのだ。

 しかし、いまだ表情は改善されていなかった。

「……」

 そんな沈んだ顔のまま、カイトは腕を突きだした。

 あっと思ったら、彼女の目の前にワインがあった。

 さっきカイトに渡したヤツである。
 ラベルも残りの量も、前に見た時のままだ。

「あの…?」

 それを見た後、メイは視線を上げた。
 意図を知ろうと思ったのだ。

「オレは…甘いのは、飲まねー」

 声にも、やっぱり覇気はなかった。

 どうやら、内容からするとメイにくれるらしい。

 けれど、彼女にはワインの行方よりもカイトの態度の方が気になった。
 もしかして、病気にでもなったのではないかと思ったのだ。

「あの…カイト様?」

 メイは、意識を確認するようにもう一度呼んだ。

 それで意識が戻ったワケではないだろうが、カイトの眉がピクッッと動いた。

 怒鳴られるっ!

 そういう気配が、ふっと頬を掠めてメイは身を竦める。
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