冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 …。

 …。

 …あら?

 しかし、5秒たってもカミナリは落ちなかった。

 そっと目を彼の顔を覗き見ると、忌々しそうに顔を歪めているのだ。
 そうして、メイにぐいっとワインを押しつけてくる。

 反射的に受け取ると、ばっと手が離れた。

 そっぽを向く顔。

 また、覇気がない。

「…い…で呼ぶな」

 ぼそぼそっ。
 蚊の止まるような声。
 よく聞こえない。

「え…?」

 耳をカイトの方へと向ける。

「絶対…様づけで呼ぶな」

 またぼそぼそっと。

 やっぱり、絶対変である。

 病気か、それとも相当ひどくソウマとケンカしたか、どっちかである。

「あ…すみません、やっぱりイヤですよね」

 でも―― 一番、しっくりくる呼び方のような気がしたのだ。

 やはりお気に召さなかったらしい。
 予感はあったのだが。

 それで怒鳴られても、そのうちカイトの方が呼ばれるのを諦めてくれるんではないかと思っていた。

 なのに、今回の反応は怒鳴りではない。
 まるで傷ついているように見えて。

 その呼び方を、二度と出来そうになかった。

「じゃあ…何て呼んだらいいですか? カイト…さん?」

 彼の見たこともない沈み具合を前に、メイは会話を続けようとした。

 どうして、こんな悲しい顔をするんだろうと。
 それが分かると、だんだん胸がしめつけられてくる。

 ぎゅっとワインを抱く手に力を込めた。

 カイトは、首を横に振る。

「カイト…」

 彼は、自分自身の名前をぼそっと呟いた。

 どうしちゃったんですか!?

 メイは、心の中で悲鳴を上げる。
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