冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●54
 言えたぁ…。

 メイは、部屋のドアから出るなり、嬉しさにくるくる回り出してしまいそうだった。

 頼まれてもいないことをお節介にも勝手にした上に、カイトの安眠まで妨害したのだ。

 怒鳴られて当然だったのに、そうならなかったのである。

 それも、これもソウマ効果だった。

 彼が、カイトに怒鳴られるということは、イヤなことや悪いことだけではないと、実践で教えてくれたのである。

 けれども、そのソウマは昨夜、彼をひどく落ち込ませてしまったようで。

 はぁ。

 昨夜の表情を思い出すと、胸が苦しくなってためいきがこぼれてしまう。

 あんな表情のカイトには、慣れていないのだ。

 きっと、もっと慣れていない顔がたくさんあるのだろう。

 そのたびに、自分の胸はこうなってしまうのか。

 本当は、自分が首を突っ込むべきことではないと分かってはいるのだけれども、気になってしょうがなかった。

 早く元気になって欲しいな。

 怒鳴られなくて嬉しかったけれども、それが出ない間は、まだ彼が本調子じゃないように思えて――本当は、どっちがいいのか分からなくなってしまいそうだった。

 けれども、とりあえず言うべきことは言えたのだ。

 それに。

 ちょっとだけ、寝顔も見られた。

 しかし、窮屈な箱の中に詰め込まれてるみたいな表情だったので、つい本当に起こしてしまった。

 起こす勇気は出ないだろうと、自分でも思っていたのに。

 何だか苦しそうだったから。

 眠ってまで、彼は心安らかではないのだろうか。

 仕事柄、肉体的にも精神的にもいろんな負荷がかかっているのは想像できるけれども。

 眠る時くらいは、何の負荷も束縛もないはずなのに。

 おかげで、メイには大きな目標が出来てしまったのだ。

 彼が、自分の家で安眠出来るような――どうしたらいいのか、まだはっきりとは分からないけれども、置いてもらえる限りは、そうできるように頑張りたい、と。

 健康的な食生活から、手始めだ。
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