冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 買い物には行ってないので、冷蔵庫を開けてあるものを探して。

 パンと、あとは卵でとじるだけの、ありあわせのオムレツ。

 カイトが降りてきたら、ぱっとフライパンで魔法をかけて、あったかいオムレツが出来上がりだ。

 コンソメ・ブロックがあった。これでスープを作れた。

 今日はこれだけでも、ハルコが来てから買い物の許可が取れたら、明日からおいしい朝ご飯を作ってあげられる。

 メイは、階段を降りて調理場の方へ向かおうとした。

「あ…」

「おや…」

 階段の下の方にさしかかった時、一階の廊下の方からタテナガの身体が現れた。
 もう一人の住人、シュウである。

 メイは、たたっと階段を降りると彼に向かって笑顔で軽く頭を下げた。

「おはようございます」、と。

 少しの沈黙があった。

 シュウは、彼女の心のメーターか何かを、計測しているかのような目で眺めた後、「ああ、おはようございます」と事務的な口調で答える。

 きっと、会社の挨拶なんかもこのような口調なのだろう。

 けれども、メイはめげなかった。

「朝食の準備が出来てます…ご用意が済んだら、ダイニングの方にいらして下さいね」

 カイトに言ったのと同じような論法で、そう言い置くと、すぐにダイニングに身を翻した。

 これ以上あそこにいたら、朝食についての質問や、どう彼が考えているかを、やはり事務的に聞かされそうな気がしたのである。

 言いたいことだけ言って、相手が驚いているうちに逃げる――それが、今朝のメイの手だった。

 でないと、きっと。

 カイトには感情的な強さで負けて、シュウには論法の強さで負けるのだ。

 何故、そんなことをするのかと詳しく聞かれても、うまく答えられそうになかった。

「そうしたかった」と言うのが、一番正しいことだ。

 しかし、それを言っても納得してはくれないだろう。

 彼らが朝食のために、この部屋にくるかどうか。

 本当は、自信はなかった。
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