冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 朝食を食べない理由を、ちゃんと聞いた訳ではない。

 時間がない、食欲がない、作れない。

 理由はいくつもあるけれども、それのどれに属しているか、今日朝食を作りながら不安に思ったことでもあった。

 食欲がない、だったらアウトだ。

 でも、「作りましょうか?」と聞いたら、絶対に「すんな!」と言われることは分かっていたから。

 だから、黙って作るしかなかったのだ。

 おみそ汁…作りたいな。

 メイは、調理場に入ってコンソメスープの水面を眺めた。

 ハルコの献立は、西洋系の食事がメインだ。

 勿論、それも嫌いではないけれども、彼女は毎朝みそ汁を作っていたので、ついついそっちが恋しくなってしまう。

 いまだったら、里芋とか…。
 ネギもいっぱい入れて。

 メイは、八百屋に買い物に行ってる気分になっていた。

 しかし、はっと我に返って卵を割りほぐし始める。
 いっぱい空気を入れて、ふわふわのオムレツを作るために。

 カシャカシャカシャッ。

 プラスチックのボウルの中で卵が渦を巻く。
 泡立て器がプラスチックを叩いて、メイの好きな歌を歌うのだ。

 だから。

 誰かが近くに立っているのに、すぐには気づけなかった。

 ふっと、気配が首筋を撫でて。
 びっくりして、ばっと振り返る。

 カイトだ。

 来てくれた!

 メイは、嬉しさが一瞬に跳ね上がった。

 胸が、ジンジンするくらい喜んでいる。

「あ、すぐ持っていきますから、座っててください!」

 慌てる指でフライパンに火を入れながら、メイは嬉しさを隠しきれない声で、彼にそう伝えたのだ。うわずる声を抑えきれない。

 身体の中に、鉄琴が入っているようだ。

 キン、カン、コン、コン。

 一足飛びに高い方を叩いていく音に、メイは足が地に着かなくなりそうだった。
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