冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 先に炒めていた具を、一人分フライパンに落として軽く温めるために炒めて。

 次は卵だ。

 あれ?

 メイは振り返った。

 カイトが、まだそこにいたのだ。

 彼女の真意を測りかねているような怪訝そうな、でも戸惑ったような顔のまま。

 シャツのボタンは、暖房が入っているとは言え、まだ途中までしかとまってなかった。

 ネクタイも、相変わらずぶらさげたままだ。

 その姿が。

 慌ててここまで来てくれた証拠のように思えて、もっとドキドキした。

 そして、緊張した。

 自分が、フライパン作業中だったことを思い出したのだ。

 彼のためのオムレツを、失敗するわけにはいかった。

 見られていると思うと、手元が狂いそうになる。

 卵を入れる時も、フライパンの中で位置を調整する時も、じーっと視線が射抜いているような気がして、指先が震えそうになった。

 うまく、やらなくっちゃ。

 役に立つってことを、彼に見てもらえるチャンスなのだ。

 ふわふわの黄色い塊を、フライパンの上で少しずつ転がして。奥の方へと移動させて。

 手首を返す。

 くるっ。
 くるっ。

 オムレツの表面に、うっすらと茶色いトラ模様を一筋描いたけれども、無事完成して心底ほーっとした。

 フライパンを傾けて、お皿に滑らせる。

 嬉しさでいっぱいになる。
 綺麗なオムレツを、カイトの目の前で完成させられたのだ。

「出来ました」

 くるっと振り返りながら、笑顔が止められなかった。
 調理実習で満足に出来上がったものを、先生に見せている気分だった。

 けれども、カイトはオムレツを見ていなかった。

 メイの顔をじーっと見ていたのだ。

 ドキン!

 それに気づいて、彼女は動きを止めてしまった。

 いきなり目が合ったことに驚いて、心臓は飛び出したがっている。

 しかし、カイトはすぐに顔をそらして、表情を歪めるような動きをしたかと思うと、ダイニングの方へと行ってしまった。
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