冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 彼女の白い指の、たどたどしい動き。

 カイトの許可なく、頭の中で鮮やかなムービーが勝手に流される。

 しばらく、カイトは自分の心と戦っていた。

 汚い言葉の博覧会だ。

 顔をひん曲げて、そこらに頭をぶつけて回りたい衝動をこらえることで、更に身悶えしそうだった。

 これでは、まるで病気ではないか。

 彼女への気持ちが、こんなにまで自分の細胞を占拠するとは、思ってもいなかった。

 いままで、診断しかねていた病気にいきなり名前がつけられて、不治の病と言われたようなものである。

 いつ治るとも、どうすれば治るとも分からない。

 明日、いきなり消えてなくなるかもしれないいが、このままずーっと影のように焼き付いているかもしれないのだ。

 歯噛みしながらも、最後は自分の心を振り払った。

 彼女との契約書を思い出したのだ。

 カイトは、メイに触らない。

 明確に書かれているその文書を見て、彼はネクタイの件を放置することにしたのだ。契約書の抜け穴を言い訳にして。

 オレが触らなけりゃいいんだろ! チクショウ!

 内心で、そう怒鳴り倒す。

 それからは、ドスドスと部屋を出るのだ。

 いつまでもこの部屋にいると、自分のいまの姿を思い出してしまいそうだった。
 こんな、似合わない格好をしている自分を。

 途中でシュウに会ったりしないように、カイトは凄い勢いで階段を駆け下りた。

 冷え切った廊下の空気が、開けっ放しの胸元に触りたがる。

 しかし、カイトはボタンをとめるより先に、ダイニングへとたどり着いた。

 ドアを開けるなり暖かい。

 一体、何時から起きてやがんだ?

 面白くないことを考えてしまって、カイトは眉を顰めた。

 一緒に細められた視界に、彼女の姿はない。

 奥の部屋の方で音がする。調理場だ。

 カイトは、でもまだ信じられない気持ちを持って、ゆっくりと歩いた。
 バードウォッチング中であるかのような慎重さで。

 夢でなければ――そこには。

 カイトは、息を潜めて開いているドアからのぞき込んだ。
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