冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ちょうど。

 白い指が、白い卵を割るところだった。

 ボウルに滑り落ちる黄色い残像が、カイトの網膜の中で閃いた。

 夢ではなかった。

 カイトは、彼女をもう一度見た。

 間違いなく、あれは夢ではなかったのだ。
 メイは、朝食を作っているのである。

 何だか嬉しそうなメイの横顔。

 ぼーっと。

 カイトは、ぼーっとその様子に見とれるしかなかった。

 胸がこれからハムにでもされるかのように、一瞬で糸を巻き付けられたのに気づかないまま。

 今回のカイトは、音を立てたりしなかった。
 フォークを落としたりしなかったのだ。

 なのに、はっと気づいたかのようにメイの目が彼を見た。

 驚いた目は、瞬間的に嬉しさで弾ける。

 巻き付いていた糸が、絞められる番がきてしまった。

 きゅううぅっっと。

 顎の裏や耳たぶの下や、うなじや唇の内側やみぞおちが、酸っぱい痺れに襲われる。

 レモンを、いきなり口の中に放り込まれた痺れだ。

 落ち着かない、でも嬉しさでいっぱいの顔のまま、メイが何かをまくしたてている。

 でも、カイトは声なんか聞こえていなかった。
 フライパン娘になろうとしている彼女を、じーっと見ていた。

 いや、目を離せなかったのだ。

 ずっと――見ていたかった。

 違う彼女に見えた。

 カイトが好きだと気づくまで、彼女はこんなにキラキラしていなかったような気がする。

 もっとくすんでいた。

 昨日、彼の中で爆発が起きて、褐色の石が転げだしたのを知っているかのようだ。

 あの時から、メイはもっと光を反射するようになったのだ。
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