冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 一晩たったら、なお。

 いままで、息をひそませていたものが芽吹いている。

 より、自然に近いメイに、きっと戻りつつあるのだ。

 一番最初の、あの人工的でイヤな匂いのするところから連れ出した日。

 確かにあの日も花は咲いていた。

 けれども、新芽はなかった。

 昨日、それが吹いたのだ。

 ツタのように一気にしゅるんと腕を伸ばして、朝日に鮮やかな緑の葉をつけたのである。

 そして、カイトの身体に絡んだ。

 ひどすぎる事態だ。

 化けの皮がはがれて、出てきたのが実はイヤな女であったら、カイトは金を握らせて追い出していただろう。

 しかし、やはり酷い。

 日を追うごとに、鮮やかさと光を増していくのだ。笑顔も、瞳も。

 カイトの自覚を、知っているハズなどないのに。

「出来ました」

 振り返る嬉しそうな顔。

 一瞬にして、カイトの中に緑の森を作っているのを知っているだろうか。

 真ん中に、一番綺麗な花を抱えている森を。

 しかし、花はカイトの視線に驚いた。

 彼女の瞳に、すごい顔つきの自分が映っているように思えて、ばっと踵を返した。

 濡れ光るチョコレート色は、何でも反射してしまいそうに思える。

 いままで、こんな気持ちは必要なかっただろ?
 ナシでも生きてこれただろ?

 何で、勝手に花なんか咲かせてんだ!

 どんなに心の中の存在を罵倒しようとしても、カイトは胸の花をむしり取ることは出来なかったのだ。


 だから――理不尽なまま、席に着くしかなかった。
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