冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●56
 にこにこにこにこ。

 目の前の太陽に、彼がフォークを差し込む。

 メイはそれが嬉しくて、調理場の出入り口のとこからじーっと見てしまった。

 しかし、ピタリとその銀色の動きが止まる。

 フォークが、一瞬自分を見ているような気配に気づいてぱっと顔を上げると、銀ではなく、灰色の視線がこっちに向いていた。

 いけない。

 あんまりじーっと見たら、彼だって食べづらいに違いない。

 あわてて、ぱっと視線をそらした。

 私は、全然見ていませんから、どうぞ食べてください。

 横を向いたまま、気配でそうカイトに伝えた。

 しかし、全然フォークが皿とぶつからない。

 まだ止まったまま、自分を見ているような気がした。

 ああ、やっぱりここにいたら食べづらいかな。

 調理場の奥の方に引っ込もうかと思った時、ようやく時が回った。

「おめー…」

 カイトが、訝しそうな、でも咎めるような口調で呼んだのだ。

「は、はい!」

 反射的に、メイは大きな声で返事してしまった。

 まさか声をかけられるとは、思ってもみなかったのだ。

 いけない――と過剰反応を悔やんでもしょうがない。

 おそるおそる、彼の方へと視線を向けた。

 眉間に影を残したまま、メイを見ている目。

「いつまで、そこに突っ立ってる気だ?」

 そして、直線的な言葉が飛んでくる。

 やっぱり、な内容だった。

 見られていて食べづらいのだ。

「あ、やっぱりそうですよね…じゃあ、ちょっとあっちの方にいますから、ご用がありましたら…」

 メイは、ハ字眉で笑った。

 言いながら、身体を調理場の方に入れてしまおうとした。

「そうじゃねぇ!」

 しかし、即座にカイトの大声が飛んでくる。

 びくっと動きを止めさせられた。
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