冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あの、ホントに、ホントに…。

 大慌てで彼に伝えようと思うのだが、その横顔は全然言うことを聞き入れる素振りはない。

 彼女が食べないと、カイトの出社に関わってしまうとしても、知ったとこではない、という頑固な顔だ。

 これでは、せっかく朝食を用意しても意味がない。

 メイは困り果てた。

 しかし、相手が折れないとなると、残された決断は一つだけになる。

「あ…あの…すぐ準備しますから! 私も、ちゃんと食べますから! お願いです、食べてて下さいね!」

 バタバタバタ。

 そして、いきなり戦場が始まる。

 調理場に戻ると、もう一人分のオムレツを作り始めるのだ。

 あの分では、用意がほとんどいらないパンとスープだけを食べたところで、カイトが納得してくれなそうだったからである。

 さっき、彼のオムレツを作った時とは、余りに違う騒々しさだった。

 フライパンは、ガチャガチャ音を立てて、焦る手が数限りない失敗をしそうだった。

 幸い、ちょっと皮が破れかけただけの結果でとどまってくれる。
 それをお皿に乗せると、メイは慌ててダイニングに戻った。

 そうしたら。

 カチャカチャ。

 自分の席のところで、立ちつくしてしまった。

 カイトが、太陽を崩して口に運んでいたのである。

 ちゃんと、食べていてくれたのだ。

 自分のオムレツを持ったまま、メイはじーっとそれを見ていた。

 嬉しかった。

 来てくれたのも嬉しかったし、ちゃんと食べてくれたのも嬉しかった。

 視線がぶつかる。

 姿勢の悪い角度で、カイトが彼女を視界にとらえたのだ。

 また機嫌をそこねてはいけないので、慌ててメイは席に座る。

 座ったところで、自分の分のスープを忘れたことにはっと気づくが、もう一度立ち上がることは出来なかった。

 カイトが。

 目をすーっと横の遠くの方にすっ飛ばしてしまいながら、ぼそっと言ったのだ。

「うめーよ…」
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