冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 リンゴーン! リンゴーン!!!!

 メイの中で、鐘が鳴り響いた。

 すぐ真上で、だ。

 好き、を衝撃的に味わうというのは、こういうことを言うのだろうか。

 カイトにしてみれば、昨日ソウマに「言え」と言われたから言ってることに過ぎないのかもしれない。

 でも。

 それでも、喜んでしまうのだ、自分は。

「よかった…」

 自分のオムレツの小高い丘を見つめながら、嬉しさを押さえきれない言葉で呟いた。

 朝ご飯を作ってよかった、彼に食べてもらえてよかった。

 いきなり、全てが報われる思いが、身体の中にしみわたっていったのだ。

 こんな気持ちをもらえるなら、早起きなんて全然つらくない。
 怒鳴られたって平気だ。

 もう、スープなんて必要なかった。

 だって、こんなに温かいのだ。
 身体も心も、内側から小さなドキドキと一緒に温かさが広がっていくのである。

 幸いにも彼は、スープの不在に気づかなかった。

 乱暴にフォークを使う音だけが、メイの耳に聞こえる。

 本当は物凄い不協和音だ。
 金属と磁器が強くぶつかる音は、初心者のバイオリンに似ている。

 でも、カイトのバイオリンなら――メイには、オーケストラのそれにすら匹敵していた。

 聞いているのが心地よくて、嬉しい。

「いただきます…」

 こんな嬉しい気持ちで、自分も朝食を食べられるとは思ってもみなかった。

 今朝は、何もかもが当たって砕けろ状態のものばかりで、本当ならいまごろ粉々だったかもしれないのだ。

 なのに、彼女はカイトの目の前の席に座って、同じ時間に食事をすることが出来る。

 彼が食べている姿を、じっと見ることは無理だけれども、時々覗くことは出来るのだ。

 静かな食事風景だった。

 2人とも何も言わなくて、食器と金属の音しかしないような――でも、それは味気ないということとは違うのだ。

 アンテナをカイトに伸ばしていて、彼の気配にずっと触っていた。

 だから、凄く彼女は幸せだったのだ。

 ノックで、我に返るまで。
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