冬うらら~猫と起爆スイッチ~
△57
 カイトは、自室にはいなかった。

 いつもの統計でいけば、そこにいるはずだったのだが、ベッドはもぬけの空だ。

 となると。

 シュウは、彼の部屋を後にすると階段を降り始めた。

 もう一つの可能性をたどるしかない。

 朝、カイトがそこにいたことなど、これまで一度もなかった。

 しかし、今朝イレギュラーと出会ったのである。

 ちょうど、いまこの辺りで。

 イレギュラー ――予測不能なカオス理論。

 それは、女性の姿をしていた。

 勿論、シュウにとっては彼女はイレギュラーではない。

 自分の人生に障るところなどなかったし、これからもその予定だ。

 しかし、鋼南電気の社長であるカイトは、最初から異常な反応を示し続けていた。
 計測器の針が、いつもとは違う数値ばかりを返してくるのだ。

 確かにカイトという存在は、短気で感情的で思いつきで行動するところが強い。

 けれども、いまの現象とは明らかに本質が違っていた。

 子供の頃から、知っている相手である。

 彼は、シュウが年上であろうと知ったとこではなく、傍若無人の限りを尽くしてきた。

 お菓子を取られた回数から、蹴りを入れられた回数まで、頭の中にはきちんと記憶されている。

 勿論、いまは蹴りを入れられる回数のカウントが増えるだけで、お菓子を取られるカウントは増えてはいなかったけれども。

 それに、今回新しいカウンターが追加された。

 イレギュラー・カウンターだ。

 いつもと違う言動、態度、行動―― その数が、物凄い勢いで増えている。

 彼女が来るまで、そんなカウンターは必要なかった。

 いや、元々カイトという存在を、本当に理解はしていない。

 シュウでは計り知れない行動や言動があるのせいだ。
 イレギュラーを除いても。

 しかし、それらはいい意味で会社にとって作用していたために、彼は放置していた。

 今回のは、違う。

 会社にとっては、余りいい意味ではなかった。

 仕事中にしなかったことをカイトはした。
 私生活でもしなかったことを、カイトはした。

 シュウは、ダイニングの入口にさしかかった。

 ここにいるに違いないと踏んだのだ。
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