冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そうよね。

 メイはうつむいた。

 うつむいたまま、彼の言うバスルームへ向かったのだ。

 バタン、とドアを閉めて。そのまましばらく動きを止めていた。

 ドアの向こうのカイトが、離れていく音を聞いた。

 それに少しホッとする。

 このまま、乗り込んで来られるんではないか―― 一瞬、そういう不安がよぎったのだ。

 しばらく、背中ごしにドアから彼の気配を探すけれども、もう何も感じなくなった。

 毛皮を脱いで、泣きそうになりながら下着を外す。

 でも、まだ全然裸になった気がしなかった。

 顔に張り付いている仮面のせいである。

 バスルームに入ると、お湯が張ってあった。

 湯気だらけのそこに入ると、彼女はまず化粧を落とした。

 クレンジングなんかここにはない。

 ただの洗顔料で、何度も何度も顔を洗った。

 でも、まだ落ちていないような気がしてしょうがない。

 濡れた手で、鏡のくもりを取りながら、身体が冷えてるのも構わずに、何度も顔を洗う。

 ようやく。

 自分の顔が出てきたような気がした。

 次は身体だ。

 まだしみついているお酒とか、タバコとか、いやな人に触られた感触とか。

 しかし、幸い一番最後のは、ほとんどなかった。

 何しろ、カイトが一番最初の客だったのだ。

 ぎゅっと。

 彼にぎゅっとされた時があった。

 驚いたけど、あの時は本当はイヤじゃなかった。

 ビックリはしたけれども、全然いやらしい感じはしなくて。

 何か、こう、もっと。

 別の感じがあった。
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