冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●59
 ぽかん。

 メイは、取り残されていた。

 暖かいダイニングに一人だ。
 カイトは、さっき会社に行くために飛び出して行ってしまった。

 直前に残された言葉。

 その意味を、まだ把握できないでいるのだ。

 とりあえず。

 自分の席に戻って座る。
 食べかけのオムレツとパンが残っているのだ。

 えっと…。

 しかし、手をつけないまま――メイは考えようとしていた。

『……この時間に出る』

 彼は、そう言った。

 この時間。

 メイは頭を動かして時計を探す。

 壁にかけられた、丸いアナログ時計の針が指しているのは、8時20分。

 多分、会社は9時から。
 ここから40分弱くらいの通勤時間。

 けれども、シュウはもっと早い時間に出た。

 渋滞もあるだろう。

 あのシュウという人は、きっと緻密に時間を計算していて、渋滞も予想はしていて、遅刻しないどころか少し早く着くようにしているはずで。

 それなのに、カイトは更に遅れて出て行ったのだ。

 いつもはどっちが運転をしているのかは知らないけれども、一緒の車ででかけているようだった。

 しかし、今日のカイトは一人。

 自分で運転をしなければならない。

 遅刻しないために、もしかしたら物凄く飛ばすのではないだろうかと。

 そんな不安が、胸によぎる。

 朝食で出社が遅れたせいで、事故にでもあったら。

 メイの胸が冷たくなった。

 あ。

 いや…。

 怖い考えにとりつかれて、メイは立ち上がった。

 朝食のことなんか、考えている場合じゃない。

 慌ててダイニングを飛び出し、そのまま玄関に向かう。

 車を車庫から出してくるだろうから、タイミング的にはまだ間に合うかもしれなかった。
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