冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 バタン!

 玄関のドアを開けると、いきなり自分の息が顔にぶつかってきた。

 今日は、とても寒い。吐息が真っ白になるのだ。

 息だけではなかった。

 朝日の中、庭にも霜が下りていたのだ。

 一面に白いコーティングをかけている景色に、メイは驚いて、一瞬動きを止めてしまった。

 しかし、そういうものに気を取られているヒマはない。

 キョロキョロする。

 ガタン!

 右の方から音がして、メイは顎を巡らせた。

 エンジンの音が聞こえる。
 それは、間違いなくカイトだろう。

 目を向けた先には、ガレージがあった。

 あ。

 メイは、目を奪われた。

 カイトがいたのだ。

 顔を歪めながら――ヘルメットを頭にかぶろうとしていた。

 バイクだったのだ。

 確かに。

 渋滞の車の中でも、バイクならすいすいと抜けられるだろう。
 車よりも早く、目的地に着くことができる。

 しかし、メイは驚いたまま見とれていた。
 背広のまま、彼が黒いバイクを出す姿を。

 走り出したそれは、家の前まで出てきた。が、途中で彼女の存在に気づいたようだ。

 フルフェイスのバイザーは朝日の関係で、その奥のグレイの目を見せてはくれなかったけれども、怪訝そうに玄関の前で止まった。

 それで、はっと我に返る。

 自分が何をしに出てきたかを、すっかり忘れていたのだ。

 しかし、思い出したところで、彼に何と言えばいいのか。

 あなたが事故にあいそうな予感がして、怖くなって――などと、どうして言うことが出来るだろうか。

 けれども、何も言わずにこのまま彼をグズグズさせれば、バイクであったとしても急いでしまうかもしれない。

 何か言わなきゃ、とあたふたしながら頭を働かせる。

 無造作な指が、バイザーを上げる。

 彼女の行動が怪訝だったのだろう。

 いきなり心まで覗かれそうな鋭い目が見えて、ますますメイは、胸を高鳴らせてしまった。
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