冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 しかし、出てきたものは、どこにでも転がっている石ころ。

「あ…あの…気をつけて」

 メイは、自分の声がバイクのエンジン音に、かき消されてしまったのではないかと思って心配になった。

 こわごわ彼の反応を見つめた。

 目元が、くっと細められて。

 怒っているのか、イラついているのか、よく分からない表情だ。

 全体が見えず、目の部分だけしか情報がないというのは、こんなに印象を変えるものなのか。

 その顔が、メットごと彼女からそらされた。

「入ってろ…!」

 こもった声で彼が怒鳴る。

 いつもの怒鳴りのように、鼓膜に突っ込んでくるものではなく、いくつもカバーをかけた音。

 いい終えるや、バイクは90度向きを変えた。

 ジャッとタイヤの角度で、地面が抉られる。

 背広の裾が、風で跳ねがる残像。

 開いたままの門の向こうに、あっという間に消えていく。


 行ってしまったのだ。
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