冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、分かりにくい言葉の影に、胸を捕まえる思いを置いていってくれる。

 それに、彼女は気づくことが出来たのだ。

 バイクで通勤するから、そんなに早く起きて朝食を準備しなくていい。

 メイは、初めて綺麗に彼の言葉を翻訳出来たような気がした。
 だが、それは思い過ごしや、自分の都合のいい解釈の可能性はかなり高い。

 けれども。

 カイトが。

 わざわざ、朝食のためだけに出勤時間をシュウとずらして、自分はバイクで出ると、そう言ってくれているような気がした。

 明日から。

 そんな…。

 ぽぽぽっ。

 こうなると、胸を止めることが出来ない。

 一斉に夜の蛍群のように、胸の中に明かりがあふれ出す。

『入ってろ…!』

 家の中に、入ってろと。

 見送りなんかするなと言うこと?
 外に出てくるなと言うこと?

 これは、ちゃんと翻訳できなかった。

 彼女の翻訳機は、まだ出来たばかりだ。

 カイトの情報を、一つずつインプットし始めたばかり。

 だから、さっきの言葉を綺麗に翻訳出来たのは、奇跡か誤訳。

 もっともっと時間が必要だった。

 そのまま食事も続けずに、メイは席に座り続けていた。

 胸の中の蛍の光と、向かいの席のカイトの気配の残りと、転がったフォークを見つめたまま。
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