冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
「おや、珍しい…」
守衛が、バイクで入ってきた彼を見てそう言った。
いや、言ったワケではない。
カイトは聞こえなかった。バイクの音のせいだ。
しかし、守衛が驚いた顔でそんな風に口を動かしたのは見えたのである。
確かに珍しいことだろう。
カイトがバイクで、しかも背広で入ってきたのだ。
こんな例外は、一度もなかった。
それを無視して、端の駐輪場に突っ込んだ。
ドルッドルッと身体の下で、バイクはアイドリングを続ける。
しかし、すぐにエンジンは切れなかった。
手が言うことを効かないのが、今なお続いているのだ。
クソッ。
カイトは、その忌々しさに唸った。
まだ遅刻ではない。
間に合ってはいる。
しかし、それは遅刻じゃない時間まで余裕がある、ということではなかった。
彼は、ようやく右手をハンドルからひきはがして、こわばった指先でキーを回す。
シュルン。
最後の回転を残して、ようやくエンジンが止まった。
顔の中だけが、フルフェイスのヘルメットのせいで温度がある。
しかし、それは何の役にも立たない熱だ。
顔は、身体を制御するものが入っているけれども、指先に代わることはできないのだから。
次はヘルメットで。
これが、一番難儀だった。
外せないのだ。
指先が、無防備な首に当たって冷たいだけである。
腹立たしく思ったカイトは、そのまま首に手を押しつけた。
むきだしであったとしても、何故か首だけは温かいのだ。
背筋を、ぞくっとした冷たいものが走る。
しかし、その犠牲のおかげで、少しは指先に温度が戻ってきて。
はぁ、と一つ息をついた。
「おや、珍しい…」
守衛が、バイクで入ってきた彼を見てそう言った。
いや、言ったワケではない。
カイトは聞こえなかった。バイクの音のせいだ。
しかし、守衛が驚いた顔でそんな風に口を動かしたのは見えたのである。
確かに珍しいことだろう。
カイトがバイクで、しかも背広で入ってきたのだ。
こんな例外は、一度もなかった。
それを無視して、端の駐輪場に突っ込んだ。
ドルッドルッと身体の下で、バイクはアイドリングを続ける。
しかし、すぐにエンジンは切れなかった。
手が言うことを効かないのが、今なお続いているのだ。
クソッ。
カイトは、その忌々しさに唸った。
まだ遅刻ではない。
間に合ってはいる。
しかし、それは遅刻じゃない時間まで余裕がある、ということではなかった。
彼は、ようやく右手をハンドルからひきはがして、こわばった指先でキーを回す。
シュルン。
最後の回転を残して、ようやくエンジンが止まった。
顔の中だけが、フルフェイスのヘルメットのせいで温度がある。
しかし、それは何の役にも立たない熱だ。
顔は、身体を制御するものが入っているけれども、指先に代わることはできないのだから。
次はヘルメットで。
これが、一番難儀だった。
外せないのだ。
指先が、無防備な首に当たって冷たいだけである。
腹立たしく思ったカイトは、そのまま首に手を押しつけた。
むきだしであったとしても、何故か首だけは温かいのだ。
背筋を、ぞくっとした冷たいものが走る。
しかし、その犠牲のおかげで、少しは指先に温度が戻ってきて。
はぁ、と一つ息をついた。