冬うらら~猫と起爆スイッチ~
◎61
 おかしいわ…。

 車を走らせながら、ハルコは考え事をしていた。

 昨日の夜、帰ってきた夫との会話を思い出していたのだ。

 その内容は、彼女が考えていたものと大きく食い違っていて、それで首をひねっているのである。

 夫の目がおかしいと思っているワケではないが、それならハルコの目が狂ってしまったということになるのだ。

 彼女の目には、あの2人が互いのことを好き合っている―― それは、はっきり見て取れたのに。

 カイトは、どう見てもあからさまだった。

 過去の彼を、よく知っているものならば。

 あんな彼を、見たことがなかった。

 女性関係には疎かったカイトが、女のために服を用意しろと言ったり、慌てふためいて帰ってきたり。

 ことごとく、ハルコの読み通りの結果になってしまったのだ。

 好きでしょうがない、という言葉よりも、もっと上の方の言葉が似合うだろう。

 トチ狂っている、とか。

 その件に関しては、ソウマと意見が一致した。

 遅く帰ってきた彼は、『寝ていてよかったのに』とつれないことを言ったが、ハルコだって気になってしょうがなかったのである。

 夫は、異様に上機嫌だった。
 それはもう、顔が緩みっぱなしである。

「あいつの前で、こういう顔をしているワケにもいかなくてな」

 などと、本当に嬉しそうだった。

 これは、式が近いのかしら。

 ハルコも喜ばしく思っていたのだが、彼が出した答えは、『カイトの片思いで、まだ何も通じていない』というものだったのだ。

 本当に驚いた。

 メイが、何かワケ有りなのは分かる。

 危ないところを助けてもらったと、まるで浦島太郎か鶴の恩返しか、な発言だった。

 だが、同じ女の目から見たら、メイだって彼のことを好きなようにしか見えなかった。

 女は、どうでもいい男のために涙なんか流せないのだ。

 あんな切ない顔は出来ない。

 としたら、彼らは両思いなのだ。

 けれども、ソウマは片思いだという。
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