冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 彼のことは、全然分からなかった。

 笑っていたかと思うとイライラしだしたり、抱きしめたりいなくなったり――そうして、ボスにアタッシュケースを開けた。

 泡だらけになりながら、メイは網膜に残った映像を呼び起こした。

 信じられない光景ばかりだった。

 ボスの言葉に怯むどころか、彼は不敵な笑いさえ浮かべて、アタッシュケースを開けたのだ。

 身体を流す。

 でも、まだ髪にタバコや酒の匂いがしみついているのが分かって、髪を洗った。

 男物のシャンプーらしく、トニックめいたすっとした感じが広がる。

 女の人は、いないらしい。

 それは、風呂場の様子を見て分かった。

 しかし、男だけで暮らしているには、イヤに綺麗にしてある。

 他の部屋に、いるのかもしれない。

 分からないことだらけなせいで、メイはグルグルといろんなことを考えてしまった。

 しかし、考えが尽きるよりも先に、身体の方が綺麗になった。

 頭がぼーっとなるまで、湯船に浸かる。

 本当は、出たくなかった。

 あのカイトは、そういう人じゃないと思いたかったのだ。

 いや、ありえない話だ。

 それでも、心のどこかで信じたがっていた。

 あの抱きしめられた感触から。

 しかし。

 これが現実なのだ。

 メイは、一度、目をうんとぎゅっとつぶった後、覚悟をして風呂場を後にしたのだ。

 脱衣所に置いてあるのはバスタオルで。

 他に着替えはなさそうだ。

 しょうがなく、身体にタオルだけを巻き付けて。

 そうして。

 脱衣所を出た。


 そこに――カイトがいるのだ。
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