冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 玄関のドアを開けると、小さな物音が聞こえた。

 方向から言えば、ダイニングの方である。

 メイがそっちにいるのだろうかと思って、ハルコは歩き始めた。
 もしかしたら、朝食を食べているのかもしれないと思いながら。

 しかし、昨日までの彼女を見る限りは、そんなことを勝手にやるとも思えなかった。

 ドロボウ…じゃないわよね。

 片目を細めながら、ハルコは少し物騒なことを考えた。

 まあ、可能性的にはメイが一番高い。

 何をしているにせよ、そこにいるのではないかと思って、ダイニングのドアを開けた。

「あ、おはようございます」

 メイだ。

 テーブルの上を片付けているところだった。

 あら?

 ハルコは、ふっと胸を掠めた違和感に目をこらす。
 もう一度、ちゃんとメイの姿を見つめた。

 別におかしいところなどない。髪型を変えた訳でも、化粧をしている訳でもない。
 見た感じは、昨日と何一つ代わらないハズ―― だった。

 なのに、挨拶をした時の彼女の笑顔は。

 昨日までの色と、大きく違っていたのだ。

 ほこりをかぶっていた家具を磨いたかのように、キラキラとしている。

 あらあらあら…まあまあまあ。

 ハルコの心の中で、天使が歌った。

 これは、きっとすごくいいことの証明なのだと言わんばかりに、胸の中をチビ天使たちが飛び回るのである。

 つられてハルコも微笑んでしまった。

 メイは、テーブルを片付けている。

 しかし、そこは――

 あら?

 眉を動かす。

 そこは、カイトの席だったのだ。

 昨日の夕食の内容なら、彼女も作った。
 しかし、違うものをメイは片付けていたのだ。

 あら、まあ。

 また、ハルコの心に花が咲いた。

 あのカイトに、朝食を食べさせたのだろう。

 それが分かって、すごく楽しい気持ちになってしまった。
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