冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●62
 朝食の後かたづけを終えたメイを待っていたのは、ダイニングでのティータイムだった。

 角砂糖をぽとんと2つ落として、スプーンでかき混ぜる。
 一瞬、崩れる砂のような動きを見せた後、角砂糖は紅茶と一つになった。

「昨日はごめんなさいね…遅くまで」

 水面を見つめていたら、そう口火を切られて、ぱっとメイは顔を上げた。

 ハルコが、ちょっと眉を困らせながら微笑んでいた。

「うるさかったでしょう?」

 ハルコは、カップの湯気の向こうにいる。

 ああ、と納得した。

 誰のことを言っているかが分かったのである。

 ソウマのことだ。

「いえ、そんな…それに、私は何もお構いできませんでしたから…」

 カイトが帰る前には、いろんな話をしてもらうことが出来た。

 けれども帰ってきてからは、何もかもがドタバタだった。

 食事も、その後も。

「それならいいんだけれど…」

 どうだかと、夫を少し信用していないような目の動きで、ハルコはカップをテーブルに戻した。

 しかし、すぐ何かを思い出したかのような瞳になった。

 それが、メイに向けられる。

「そう言えば…バイクが見当たらないんだけれども…どうかしたのかしら?」

 ドキン!

 その質問に、胸がバウンドした。

 あのヘルメットの中のグレイの目を思い出したのだ。
 バイザーが上がった瞬間を。

 や、やだ…変に思われちゃう。

 心とか顔に熱が入る。赤くなっているのではないかと思って、メイは慌てた。

 それを隠そうと必死になったのだ。

「あ、あの…今日は、バイクに乗って出勤されたので…その…」

 本当のことをしゃべっているだけなのに、彼女の口はしどろもどろだった。
 もう赤い顔を隠すには、うつむくしかないのかもしれない。

「え? バイクで…会社に?」

 ハルコの反応は、ひどく驚いたものだった。

 その通りなのだが、何か引っかかるのだろうかと、顔をちょっとだけ上げて彼女の表情を盗み見た。

 豆鉄砲を食らったような顔だ。
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