冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「こんなに寒い日に、しかも平日に、どうして彼はわざわざバイクで出勤したのかしら? シュウがどうかしたの?」

 それとも車が?

 ハルコが、違う心配をしていることに気づいた。

「そうじゃなくって…出勤時間が遅くなったので、もう一人の方は先に行かれました」

 どう言えば、うまくごまかせるだろうか。

 朝食のせいで、予定が狂ってバイクで出勤させてしまった、などとハルコに知られたら、呆れられてしまうかもしれない。

 この家のしきたりとか、そういうものを何も知らない自分の判断で、勝手なことをやっているのだから。

「あら…寝坊したの? しょうがないわねぇ…」

 ふっとハルコは微笑んだ。
 まるで、やんちゃな弟を思い出すような瞳。

「違います!」

 メイは、それを急いで否定した。

 無駄に声が大きくなってしまって、慌てて口をふさぐ。

「え? 違うって?」

 ハルコのまばたきの数は、メイの心拍数と一緒。
 恥ずかしさに、胸が勢い余っているのだ。

「違うんです…私のせいなんです」

 ああ。

 話の流れが、最悪の方向だということに気づいた。
 どうして、いつももっとうまく立ち回れないんだろうか。

 しかし、ここまで来たらしゃべらないワケにはいかなかった。

 でなければ、変に思ってしまう。

「あの…朝ご飯の支度が遅れて…」

 どうにか、そこで言葉を切る。

 きっと、ハルコなら何を言いたいか、どういう状況だったのかなどは、すぐに察してくれそうに思えた。

 そうして、それは正しい推察だった。

「朝食を食べて、出勤時間に遅れてバイクで出かけて行ったの? 彼が?」

 慎重な口振りで、ハルコが内容を平たくして確認してきた。

 本当に? 本当に? と、一言一言に確認を込めている。

 頷くしかなかった。

 確認事項は、全て真実だったのだ。
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