冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●64
 メイが何が言うたびに、それはハルコを喜ばせるだけの結果となった。

 それはもう、おかしくてしょうがないという気持ちを押さえきれないかのように、肩を震わせるのである。

 そんなに、おかしいことを言ってるのかしら。

 と、かなり心配になった。

 けれども、何度そう聞いても『違うのよ、そうじゃないのよ』と笑うのだ。
 笑いの内容に、嘲りとか呆れはない。

 純粋におかしくてしょうがないかのようだった。

 しかし、ハルコはずっと笑ってばかりいたわけではない。
 ようやく落ち着いた彼女に、メイはお願いした。

 今日から、やりたいことがいろいろあったのだ。

 この家のことを覚える。

 何がどこにあって、どういうクセがあって。

 家は生き物だ。

 生き物には性格がある。
 ポリシーもある。
 窓がサビついて開きにくい、というようなささやかな病気も持っている。

 ハルコについて回って、いままで勝手に触れられなかったものを知ろうと一生懸命になった。

「ここだけ…窓枠が違う」

 カイトの部屋を掃除する時。

 普通の掃除の時は窓拭きまではやらないのだが、今日はメイがいて。
 彼が帰ってきたとき、ピカピカにしておきたかったのだ。

 雑巾を持ったまま、デスクの横の窓辺にたたずんで、その窓枠を眺めた。

 つや出しのモップを持ったハルコは、顔を上げると微笑んだ。

「ああ……それは…」

 くすくすくすくす。

 一度ツボにはまると、なかなか笑いが止まらないようである。

「それはね…仕事がうまくいかなかった時に、彼がノートパソコンを投げつけて壊しちゃったのよ」

 出てきた言葉は、メイを絶句させた。

 短気な男だとは知っていたけれども、まさか八つ当たりで窓まで壊してしまうなんて。
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