冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「去年の話ね…その時は、私はまだこうやって家に頻繁に出入りはしていなかったから、翌日にシュウから聞いたのだけれど…冬だったのに」

 後先考えないんだから。

 ほほほほほ。

 笑いのツボが落ちついてきたのか、笑い方が穏やかになってくる。

 ほほほって。

 そんな笑顔で済ませていいものなのかと、メイは困った眉になってしまった。
 付き合いが長いと、そういうところにも慣れるものなのだろうか。

「彼はね…」

 ふっとハルコは、モップを持ったままちょっとだけ上を見た。

「彼はね…思い通りにならないと、本当にすぐ怒ったり暴れちらしたり手がつけられなくなるのよ…自分の興味のない方向になると、途端に冷めているのに、本当に欲しいものの前では、いつもそうなの」

 だから、彼の態度を見ていたら、いま一番何が欲しいのかすぐに分かるのよ。

 モップの柄を握り直しながら、ハルコは彼女の方を見る。

 『分かる?』と伺うような目で。

 ああ。

 メイは、少し胸がチクンと痛んだ。

 付き合いの長さという壁が、ハルコの前に見えたのである。
 彼女は、本当にカイトのことをよく知っているようだ。

 もしかしたら、彼の心まで――

 それは、まだ自分にはないものだ。

 きまぐれに偶然に奇跡的に、翻訳がうまくいく時はあるけれども、あとの彼の心の中は、無限のブラックホールなのである。

 怒鳴りや怒り一つ取っても、まだうまく理解出来ないのだ。

「そうなんですか……」

 そう答えることしか出来なかった。

 カイトのことを知るのに、他の人の言葉ではどうしようもないのだ。

 知識として知ることと、肌で覚えることは違うのである。

 たとえ、ここでハルコの言葉を丸飲みしたとしても、それは何の応用もない知識に過ぎない。

 学校のテストではいい点数が取れたとしても、実地でうまくいくとは限らないのだ。
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