冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□65
 冬の6時。

 たとえ、世界において6時という時間が不動のものだったとしても、この冬の6時だけは一番腹立たしい6時だ。

 少なくとも、いまのカイトに取っては。

 真っ暗な外。

 太陽がなくなるなり、一気に突き刺さる寒風。

 冬の6時というだけで、この騒ぎなのに。

 12月になるなり、いきなり狂ったように騒ぎ出す町並み。

 緑だの赤だの電飾だの。

 デパートは、子供とカップルとやらのために、この月だけは特殊な歯車が回り出す。

 その子供を食い物にして商売を成り立たせているカイトとしては、感謝してしかるべきなのに。

『アニバーサリーなんてハラの足しにもならねぇ』――情緒性に欠ける男だった。

 赤信号で止まった夕方の渋滞時間に、忌々しさを感じた。

 こうやって待っている間にも、彼の体温はどんどん盗まれていくのである。

 朝に比べたら、マシはマシだった。

 会社のイベントなんかで使う、社名ロゴ入りジャンパーをひっかけていたのである。

 スーツの上にジャンパー。

 どこかの工務店よろしくだったが、そんなことに構ってはいられなかった。

 とっとと、青になりやがれ。

 しかし、素手はどうしても素手のままだ。

 軍手でもないかと探していたが、生憎と彼の働いている職場は、ゲームソフト会社であって工務店ではなかった。
 ジャンパーはあっても、軍手はない。

 寒風にさらされて、どんどん手がガチガチに固まっていく。

 青信号になった。

 クソッ!

 タイヤが、一瞬空回りするくらいにスロットルを開けた。
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