冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 何だ……こいつ。

 不審な目で、ジロジロ見てしまうカイトだった。

 普通のホステスなら、軽い冗談の一つも飛ばし、さっさと水割りを作り始め、しなだれかかってもおかしくない時間を、彼女は無言で固くなったままだったのだ。

「あ……あ、すみません……すぐお作りします」

 ハッと仕事に気づいたかのように、でも、これでカイトの方を見なくて済む理由が出来たかのように、彼女はグラスに手をかけた。

 震えている指先。

 カラン、カランッ。

 落ち着かない手によって氷がグラスに落ちていくのを見ていたら、カイトの方がすっかり冷静になってしまった。

 何となく、理由が分かってしまったのである。

「おめー……店出んの、今日が初めてだろ?」

 ぼそっと。

 元々、こういう席で騒ぐような性格じゃない。

 カイトは、彼女にしか聞こえないくらいの声の音量でつぶやいた。

 視線を、その細い指先に向けたまま。

 指先が、止まる。

 最後に落とした氷だけが落下していき――

 カラーン。

 グラスの中で一回転する。

「はい……すみません……」

 自分の行動が、余りにマズイものであると気づいたのだろう。

 消え入りそうな声だった。

 そのまま放っておけば、どんどん小さくなって最後には消えてしまいそうに思えて、カイトはため息をつく。

「別に、気にしねーから……ほれ、水割り作れ」

 何で、オレがホステスに気を使わなきゃなんねーんだ。

 理不尽なものを感じはしたが、カイトはそれをガリガリと氷のように噛んだ。

 女イジメて楽しんでもしょうがないからである。

「あ……はい」

 ウィスキーを持ち上げて、水割りを作るためにグラスに注ぎ始める。

 カイトは見ていて――しかし笑い出しそうになった。

 彼女は、グラスの半分ほどまでウィスキーを注いだかと思うと、次に水を入れようとしたのである。
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