冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ちょうど、メイの真横。

 いまカイトが立っている位置だ。

 しかし、メイは慌てて飛び退いたり、寒いからと言って玄関から離れる様子はなかった。

「朝は…」

 真横で、彼女が小さく呟く。

 ん?

 真横という角度は、不思議な角度だ。

 お互いがすれ違う瞬間のような位置であるために、見えそうで見えない微妙な角度だった。

 それが、真横。

 大事な表情を、読みとることは出来ない位置。

「朝は…いえ、今日は…寒くなかったですか?」

 ゆっくりと。

 彼女は角度を修正した。本当にゆっくりと。

 黒髪の柔らかそうなカーテンの向こうから、頬や鼻が出てきたかと思うと、茶色の目が心配そうに自分に向けられた。

 カッと頭に血が巡る。

 理由の一つは、朝の自分のバカさ加減が、見つかってしまった気がしたから。

 もう一つは、茶色の目が、本当にカイトを心配していたから。

「寒かねぇ!」

 ばっと、彼女から視線を投げ捨てながら、カイトは怒鳴った。

 ここで寒かったとでも言おうものなら、彼女は落ち込んだり、明日からもっと頑張ろう、などということを考えかねなかったからである。

 あれ以上頑張られてたまるか。

 それが、本音だった。

 本当は何もしなくてもいいのである。

 朝ご飯なんて、カイトは興味がないのだ。
 早起きをしてまで作るほどのものではない。

 けれど。

 あの空間を完全に手放せと言われたら――カイトは、結局仏頂面になるしかないのだ。

 とにかく、あれ以上頑張られたらハラが立つ。

 彼女のその行動の意味を考えないようにしているカイトにとっては、それはかなり痛い領域だった。
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