冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 コンコン。

 ノックは、少しおそるおそる。

 ハルコにああは言ったものの、少しまだ怖い。

 カイトはさっきまで、火がついたように怒っていたのだから。

 まだ怒ってるんじゃないかと、それを心配しているのだ。

 機嫌の悪い時にお願いなんか出来るハズもない。
 様子を見て、切り出すかどうか決めようと思った。

 中からは返事はない。

 お風呂?

 そう思いはしたが、一応ドアに向かって、「メイです」と、名乗った。

 すると。

 ドスドスと、恐竜のような足音が聞こえる。

 それが凄い勢いでドアに向かって近づいてくるのだ。

 まだ怒ってる!

 メイは、タイミングの悪い自分に気づいて、反射的に身を固くした。

 もう少し後で、食事に呼びにくればよかった、と。

 バタン!

 目の前で、ドアが勢いよく開く。

 ビクッと、彼女は身体を震わせた。

 あ。

 しかし、目は閉じなかった。

 はっきりと前を向けていた目に、いきなりカイトの顔が飛び込んでくる。

 慌てて飛び出してきたという顔。その目の中には、ちゃんと自分が映っていた。

 怒った顔――じゃなかった。

 よかった。

 メイは、それにホッとした。

 けれども、彼女が何かを言い出すより先に、カイトはハッと我に返ったように、首だけ突きだして左右を見る。

「あ、ハルコさんは帰られました」

 それを言うと、彼は別にそういうんじゃない、と言う風な顔で、突然周囲を伺う動きをやめた。

 不機嫌顔のまま、横にそらして止める。

 まだワイシャツ姿だ。

 朝のように、前ボタンをいくつか外したまま。ネクタイや上着はない。

 彼は部屋に戻ってから、自分の身の回りのことを何もしていないようだ。
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