冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あの…夕ご飯の支度が出来てます」

 お金のことを切り出そうと思ったけれども、先に食事をしてからでも遅くないのでは、とメイは思った。

 いや違う。

 最初に切り出して、もし怒りでもされたら――彼が夕食を抜いてしまいそうな気がしたのである。

 だから、先に食べて欲しかったのだ。

「肉じゃがなんですよ…ジャガイモがほくほくしてて…それにそれに、いっぱい煮込んだので、味はしっかり…」

 何を夕食の解説をしているのか。

 彼の視線が、夕食の話題でこっちに向いたのに気づくと、何故か胸がドキドキして、口が勝手に動いてしまったのだ。

 なのに、彼は無言でじっとメイのしゃべるのを見ているのだ。

「きっと、おいしいです…えっと…多分」

 カイトに夕食を食べて欲しかった。

 だから、いきなり大風呂敷を広げた途端その大きさに気づいて、彼女はぱっと4つ折りにたたんだのだ。

 それきり、次の言葉が見つけられなくてメイは黙ってしまった。

 ああ、ダメ。何かしゃべらないと。

 朝のように強引に、『それじゃあ、下に来てくださいね』と言って逃げればいいのだ。

 そうしたら、多分カイトは来てくれるんじゃないか――そう思った。

 けれど、今度はうまく口が開かなくなる。

 重い沈黙に、いたたまれなくなった時。

 カイトは、無言のまま部屋に戻ろうとした。
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