冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、別に女好きというワケではない。

 それどころか、彼の金を目当てに群がってくるような女は大嫌いだった。

 まだ商売女の方が、いろんなものを割り切っていて扱いやすい。
 だから、ああいう店にウサ晴らしに出かけるのだ。

 それなのに。

 全然、割り切れないような相手をつかんでしまった。

 もう一度、息を吐く。

 髪の毛に指を突っ込んで、カイトは頭を押さえるようにした。

 何で。

 何で……オレは。

 メイと一緒だと、落ち着いてものが考えられなかった。

 頭の中にあるネジが、外れかけたようにガタガタときしんで、彼の思考を安定させないのだ。

 だから、今ならきっと落ち着いていままでのこと、これからのことを考えたり分析できたりすると思ったのである。

 それなのに。

 一番最初に頭をよぎったのは。

 あの――笑顔だった。

『よかった……』

 そう、彼女は笑ったのだ。

 カイトの目の前で。

 あんな衣装であることすら一瞬忘れてしまうくらい、その笑顔に吸い込まれた自分がいた。

 ついで、カイトは自分の手を見た。

 身長と対比すると、バランスが悪いくらいの大きな手である。

 抱きしめた感触を、思い出そうとする。

 しかし、やっぱり何も残っていないのだ、そこには。

 ぎゅうっと。

 確かに、自分でも信じられないくらいに強く抱きしめたのに。

 クッ。

 悔しい――に類似した感じが、胸を斜めになぞった。

 悔しい?

 しかし、直後に自分の思考に首を傾げる。

 悔しい、カラダ。

 いや、カラダじゃない。

 悔しいのは。

 ガチャ。

 ドアが、開いた。

 全身が、ドキッとした。

 何のドアが開いたのか、一瞬分からなかったからである。
 はっと音の方へ顎を巡らすと、続き部屋のバスルームのもので。

 視線が、彼女を探した。
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