冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□69
 食事が終わってしまうと、本当に何もすることがなくなる。

 しかし、いつまでもダイニングでぐずぐずしている訳にもいかず、カイトは乱暴に席から立ち上がらなければならなかった。

 時計をみたら、やっぱり8時くらいで。

 信じられない。

 8時に家にいて、何をしろというのか。

 この家にあるカイトのおもちゃは、ノートパソコンくらいである。

 必要なソフトはあるけれども、全部をインストールしているワケではなかった。

 とりあえず立ち上がったカイトは、そこを出ていこうとした。

 メイの方も、彼が目の前にいる限り後かたづけが始められないらしく、食事が終わってもそこに座ったままなのだから。

 本当は後かたづけなどしなくていい、と言いたいのだが。

 またその件で一悶着起こす気は、いまの彼には起きなかった。

 人間、満腹というものをストレートに感じると穏やかになるものなのだと、初めて知ったような気がした。

 ただ、満たされているのは胃袋の方だけであって、決して心ではない。

 けれど、心は空っぽというワケでもなかった。

 目の前の女が入っているのだ。

 そう、ここのところに。

 堂々とど真ん中にたっているワケではなく、部屋の隅っこの椅子にちょこんと座っている。

 んなとこにいなくて、もっとこっちこい!

 中央に引きずり出そうとしている自分と、止める自分がいる。

 彼女は、確かに中央にはいないけれども―― その部屋には、たった一人しかいないのだ。

 他の選択肢なんかなかった。

 ハルコやソウマやシュウとは、全然違う部屋。

 彼女のためだけの部屋。

 けれども、今日もまた、心の隅っこの椅子に座っているメイを見るだけで、彼には何もできない。
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