冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あのっ!」

 ダイニングを出ていきかけたカイトは、少し強い声で呼び止められた。

 ちょうど、彼女について考え込んでいただけに、驚いてはっと振り返ってしまう。

「あの…食後のお茶でもいかかですか? コーヒーがよければ、コーヒーいれます」

 呼び止めるのに、勇気を費やした顔をしている。

 メイは、一生懸命な唇でそれを訴えるのだ。

 しかし、その内容はお茶という、カイトにとってはくだらない時間への誘いだった。

 お茶のためだけに時間を割くという感覚は、彼にはないのだ。

 茶なら、仕事しながらとか、他のことをしながらでも飲めるのだから。

 しかし。

 メイの様子に、彼は引っかかった。

 もしかしたら、お茶というのは口実で、他に彼に言いたいことがあるのではないだろうか――そう思えたのだ。

 言いたいこと。

 胸がひやっとする。

 彼女のことを余りに知らない分、何を言い出されるか想像がつかなかったのだ。

 もしかして。

 イヤな考えが掠めた。

 出て…行くのか?

 考えられない話ではない。土台、不自然な同居生活なのである。

 あれから数日が経って、彼女も落ち着いていろいろ考えたのかもしれなかった。

 だから、カイトの考えも及ばない結論にたどりついているのかも。

 それが、怖かった。

「別に…いらねぇ」

 彼は、お茶の誘いを―― 要するに、その裏側の誘いを断った。

 お茶の誘いを断るだけなら、何の問題もないはずだからだ。

 再び、そこを出ようとした。

「あ、あの!」

 もう一度、呼び止められる。

 間違いなかった。

 メイは、何か言いたいことがあるのだ。

 お茶はその口実にすぎなかったのである。

 しかし、彼女の言葉は影縫いのようにカイトの足を止めた。

 ドアのところで、立ち止まってしまったのだ。
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