冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「茶もコーヒーもいらねぇ…何だ?」

 机に片肘をかけて、目をあらぬ方にそらしながら聞く。

 彼女の顔を、見ていたくなかった。

 検査の後、医者の目の前に座らされている気分だ。

 これ以上、病名を言われる前に、カルテを眺めながらうなられるのは耐えられなかった。

 患者の頭の中には、百万の病名が駆け抜けていくだけなのだから。

「あ…はい。すみません、時間とらせて、その…あの…厚かましいってちゃんと分かってるんです! 本当は、その…すごく贅沢だって分かってるんです! えっと、あの、その…あの…」

 最初は、勢いよく口も動いていたけれども、最後の方になればなるほど、メイの口はぐちゃぐちゃになって言った。

 緊張の余りに、言葉が混乱している。

 カイトは、ようやく彼女を見た。

 落ち着かなくあちこちに動いていた目が、そこでぴたっと彼で止まった。

 何、だ?

 何が言いてぇ?

 彼女の言うことは要領を得ないのだ。

 これからどういう展開が、自分を待っているのか想像もつかない。

「あの…」

 自分で話を切りだしたくせに、メイは泣きそうな顔になる。

 言いたい言葉をどうしても言えない――それがたまりにたまって、そんな顔になったような。

 馬鹿野郎…。

 そういう状態になると、泣きたくなるよりもキレる男であるカイトにしてみれば、今の状態は生殺しもいいところである。

 何が言いたいのかはっきりきっぱり口にしろ、と。

 しかし、それを怒鳴れないのだ。

 はっきりきっぱり口にされて、それが。

 それが。

 ズクズクと、内側が熱を持ったように痛む。

 気に障る痛みを続ける。

 毎日一回は、こういう痛みを食らっているような気がした。

 メイという女といるだけで、トラブルの渦中にいるように思えるのだ。

 しかし。

「あの…絶対! 絶対! 絶対に…変なことには使いません! だから、だから…ちょっとだけ、お金を貸してくだ…すみません」

 必需品しか買いませんから。

 ようやく、メイは覚悟を決めたように、でも、ひどく言いにくそうに頭を下げたのだった。


 ……あぁ?
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