冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 階段ののところに出た時、ちょうど帰ってきたらしいシュウと出会ってしまう。

 反射的にぺこっと頭を下げはしたものの、もう見えなくなったカイトを追いかけるために、階段を駆け上がった。

 豆台風のように。

 その台風にまばたきを一つした後、眼鏡の位置を直すシュウ。
 何事もなかったかのように自室に戻っていった彼を、メイが見届けることはなかった。

 とにかく彼女は、この階段をいままでで最速で登ったことだけは間違いなく。

 部屋のドアに手をかけたところのカイトに、ようやく追いつくことが出来たのだ。

「カイ…っ!」

 呼ぼうとしたけれども、息が切れてうまく呼べなくて。

 ようやく足を止めてくれた彼の前で急停止しても、乱れた呼吸を整えるのが先決だった。

 でないと、言葉が出せそうにないのだ。

 しかし、急いで言わなければならないことがあった。

「こ、こんなに…お借りできません!」

 ずいっと彼にお札の塊を差し出す。

「持ってろ!」

 しかし、返事は一喝だった。
 有無も容赦もない一言。

「でも!」

 メイも引けない。こんなに過ぎるお金を借りたかったワケではないのだ。

 とりあえず1枚あれば、当座のやりくりで何とかなるのである。

「返せなんて言ってねー!」

 なのに、信じられないことを言うのだ。
 人がいいにもホドがある。

 この調子では、彼の財産を食いつぶしかねなかった。

「ダメです! 絶対、ダメです!」

 だから、今までになく強い口調で拒否した。

「この一枚をお借りできたら、いまの私には十分なんです! それ以上のお金を、無駄に使って欲しくありません!」

 言葉が、ちゃんと出た。

 いつもなら、あのー、そのー、とつっかえるのだが、この時ばかりはちゃんと言いたいことが言えた。

「もしも、不要なお金なら…これで…また、別の人を助けてあげてください」

 お願いします。

 メイはもう、十分してもらったのだ。
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