冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 まだ、カイトが恩返しのツケが終わっていないと思うのなら、他の同じような境遇の人を救って欲しかった。

 そうすれば、このお金だって全然無駄じゃないのである。

 彼女は、その気持ちを強く込めて頭を下げた。

「そんなん…!!」

 カイトが怒鳴りかける。しかし、ぴたっと口を閉ざした。

 何を言いたかったのかは、彼女には分からない。

 メイは顔を上げて。

 そうして、もう一度お金の山を強く差し出した。
 もう、こんなに大金は自分には必要ないのだという意思を込めて。

 しかし、まったく気が済んでないという顔のカイトと視線がぶつかる。

 ささやかなフォローを一生懸命口にした。

「ただ…今後、生活必需品等でお金が必要になったら、ハルコさんの預かられている生活費の方を少し分けていただければ…それだけ、お願いできれば、本当にこれをお借りする理由がないんです」

 勿論、無駄遣いなんかしません!

 ちゃんと、言えた。

 よかった。

 メイは、ホッとした。

 自分の気持ちを、綺麗に言葉に乗せることが出来たのだ。

 後は、カイトがどう受け止めてくれるかである。

 頬の筋肉が、何かをこらえているようにピクピクと痙攣していた。

 また、奥歯も強く噛み合わされていて。

 おこら…ないで。

 メイは、そんな彼を見つめながら祈った。

「好きにしろ!」

 札束はひったくられ――そうして、カイトは部屋に消えた。

 バターン!

 部屋のドアは、彼女の髪を揺らすほど強く閉ざされた。

 しかし、メイはそのドアの前で嬉しさに微笑んでしまった。

 ちゃんと気持ちが通じたのだと、そう思えたら、顔が勝手に幸せを表現してしまったのである。


 その笑顔のギャラリーは、ドアだけだった。
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