冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 メイにではない。

 自分に、だ。

 彼女がお金が必要になってお願いするまで、微塵もそのことに気づかなかったのである。

 メイは、女なのだ。

 その存在については扱いが苦手で、これまでよく知ろうとしなかった。

 そんな怠慢のせいで、女にとっては何が日常必要なのか―― 想像もつかないのだ。

 カイトに言えないような必需品だってあるはずで。

 人は生きている限りお金が必要である。

 それは、何よりもカイトが知っていることだ。

 生きる手段としてや、欲しい物を手に入れる時に最大限に使っている。

 どちらかというと、必需品からほど遠いものばかり手に入れているのが、彼の特徴ではあるが。

 もとい。

 自由になるお金が必要であることは、考えれば分かることだ。

 いままで彼女はずっと考えていて、そして、ようやく今日言い出したような気がした。

 頭を下げて。

 ムカッッ。

 お金を掴んで部屋を出る。

 自分のバカさ加減にどんどんハラが立っていくのだ。
 我知らず、足取りが叩きつけるようなものになった。

 階段を降りて廊下に出る。
 ダイニングまで、その勢いと強さのまま歩いたのだった。

 バターンとドアを開けると、メイが驚きと戸惑いの目で自分を見ていた。

 きっと、足音のせいだろう。

 何故か床に座り込んでいて、慌てたように立ち上がる。

 カイトは、まだ勢いを持続したまま部屋の中に踏み込むと。

 ダンッッと、札束を机に置いた。

 分かっていたのは。

 メイが、この額を遠慮するだろうということだ。

 そんなのは、引き出しから掴んだ時から予測がついていた

 だから、このまま置き逃げすることに決めたのである。

 彼女に懇願されたら、きっとカイトは拒めずに、かなりの残額を持ち帰らされてしまうだろうから。

 渡して去れば、メイは預からざるを得ないだろう。

 そして、きっと必要になったら使うはずだ――そうシミュレーションした。
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