冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「え……でも……あの」

 巻き付けたタオルを更に手で押さえた状態で、彼女はうつむく。

 だーっっっ!!!!

 頭の中がいきなり混乱を始める。

 猫に毛糸玉を与えてしまった状態だ。
 ひっからまって結ばって。

 と、とにかく。

 カイトは、彼女の方へと早足で近づいた。

 ビクッと緊張する身体の真横を素通りして、彼は脱衣所に飛び込んだ。

 何なりと着れそうなものを探そうと思ったのだ。

 家政婦が、いつも普段着などはそこに入れているハズなので。

 ガタガタッッ。

 焦る動きで、あちこちに身体をぶつけながら、カイトは着替えを探った。

 こういう時に限って、使えそうなものが見つからない。

 ったく。

 苛立っていた。

 着替えを用意できなかった自分にもだし、いま探せない自分にも。

 あんな格好のまま出てきた彼女にも。
 それ以外の、分からないもの全部も。

 とにかく、カイトは全部に苛立っていた。

 思い通りにならないことは、彼は大嫌いだったのだ。

 そういう苛立っている時に限って、彼女が脱いだだろう派手な毛皮なんかが目について。

 目障りに思ったカイトは、それをはじき飛ばした。

 が。

 それがマズかった。

 彼女は、彼に見られたくなかったのか、その中に下着をくるんで隠していたのである。

 それが床にちらばった。

 ドキーッ。

 まさか、そんな事態になろうとは思っていなかったカイトは、一瞬身体が固まってしまう。

 しかし、すぐに見てはいけないもののように目をそらした。

 チクショウ!

 調子が狂っているどころの騒ぎではなかった。


 こんなに自分がパニクる日が来るなんて――彼のスケジュール帳の、どこにも書き込まれていなかったのに。
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