冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 驚いた顔のまま、じっと彼女を見ている。

 目を大きく見開いて。

 ああ。

 カイトは、きっとまだ彼女のいる生活に慣れていないのだ。

 こうやって、毎朝起こされるという感触も。

「朝ご飯出来てますから、用意が出来たら下りてきてくださいね」

 でも、もしかしたら何か怒鳴ろうとか思っているのかもしれない。

 その可能性も捨てきれず、メイはその部屋を出ていこうとした。

 昨日のように、言うだけ言って逃げようと思ったのだ。

 それに、カイトがお金のことに気づいてしまうかもしれない。

 床ではなく、机の上にあることを。

 そうなるとまた、彼の朝食の時間が少なくなってしまいかねなかった。

「今朝は、ネギと豆腐のおみそ汁です。あと、鮭も焼いてますから」

 カイトが他のことに気を取られないように、朝のメニューをまくしたてながらその部屋を出て行く。

 パタン。

 ドアを閉めたら、そのままふーっと一つ息をつく。

 よかった。

 今朝も怒鳴られなかった。

 もしかしたら、カイトは単に低血圧で、朝から怒鳴る気がしないだけかもしれない。

 あっけに取られているだけかも、慣れていないだけかも。

 理由は、何だっていいのだ。


 もうすっかり上機嫌になったメイは、軽やかな足取りで階段を駆け下りた。

 そのまま――歌い出しそうな気分でダイニングに戻った。
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