冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 大股でガレージに向かう。

 まだ、シュウは出社していないので、シャッターが下りたままだった。

 カイトは、脇にある通用口から入った。

 中にあるボタンで、シャッターの開け閉めが、できるようになっている。
 しかし、彼の目的はシャッターを開けることではない。

 開閉ボタンに見向きもせずに、カイトは暗いガレージ内を歩いてバイクに近付いた。

 シートに、持ってきたブルゾンと手袋を置く。

 それが用だった。

 昨日、彼はええ格好しいで、メイに寒くないと言ってしまったのだ。

 その手前、手袋なんかを持ったままダイニングには行けなかったのである。

 それを見たら、彼女が『やっぱり寒かったのに無理をしていたんだわ』と思うに違いないからだ。

 ムカムカ。

 ええ格好しいの虫がうずく中、けれども、いまの自分がマヌケなようにも思えて、結局不機嫌になるのである。

 車のところに来たシュウが、昨日と違う光景に気づかないワケもない―― それも、不機嫌の原因だった。

 しかし、いまの最優先事項は、あのロボットではなかったのだ。

 ムカムカしながらも、ガレージを出る。バンと通用口を閉めて。

 玄関に戻るまでに、すっかり彼の身体は冷えてしまっていた。

 だが、これから温かい朝食が待っているのだ。

 ダイニングに近付いていくだけで、それが分かった。

 温かい匂いがする。

 おそろしく懐かしい記憶だ。

 もう、自分の中にはなかったんじゃないかと思うくらい古い記憶が呼び覚まされる匂い。

 それを怪訝に思いながら、カイトはドアを開けた。

 ふわっと、熱気が鼻面に押し寄せる。

 冷え切った彼の身体には、温かい部屋すら熱気のように感じるのだ。

 しかし、それで全身がほっとしたのも確かだった。

 ドアを閉めておとなしく解凍されていると、メイが調理場の方から、パタパタとやってきた。
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