冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「鮭、焼けましたよ…」

 嬉しそうな顔で、お皿を持って近付いてくる。

 鮭が焼けたのが、どうしてそんなに嬉しいのか理解できなかった。

 しかし、彼の席にそれが置かれて、ピンクの肌を見た時―― 懐かしい匂いの理由が分かった。

 朝から魚を食べるなんて習慣を、長い間忘れていたのだ。

 席についた彼の前に、真っ白なご飯と刻みたてのネギの浮いたみそ汁が置かれる。

 それから、あったかいお茶。

 カイトは、瞬きをするしかできなかった。

 魔法のように、次々と温かいものが並んでいくのである。
 彼が、さっきまでとても寒い思いをしたのを知っているかのように。

 居心地が悪かった。

 眉をしかめて、その感触をやりすごそうとする。

 そんなカイトの様子に気づかずに、自分の分の支度を終えたメイは、向かいの席に座った。

 にこにこと彼を見ている。

 カイトが食べるのを待っているのだ。

 がしっ。

 みそ汁の椀を掴む。

 乱暴な動きになったのは、心の中にいるメイのせいだ。

 知らないことがたくさんある。

 こんなに料理を出来る女だとは思っていなかった。

 いや、出来なくたってよかったのに。

 ずっ。

 みそ汁をすすった。

 熱い感じが、一気に身体の中に回り始めた。

 カイトには、味について風情のある回答は何も出てこない。

 大体、食べるという行為は嫌いではないが、そこまで執着があるわけでもないのだ。

 シュウは、はっきりきっぱり『時間の無駄』と思っているようだが。

 すすった後、椀を抱えたままメイを見る。

 じっと、向こうも見ていた。

 どうやら彼女は、毎回カイトに『うめー』という言葉を言わせようと思っているようだ。

 あんな苦手な言葉を。

 いままでだって、何とか絞り出してきたのに。

 もう一口すすった。

 まだ見ている。

 心配そうな顔になってきたのが分かった。

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