冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●8
 覚悟を決めて―― 本当は、全然決まってなかったのだけれども、とにかく、メイは脱衣所を出た。

 そこに、カイトがいるはずだった。

 彼女を買った男。

 その事実が胸をよぎる度に、ずしーんと重くなっていく。

 けれども。

 この姿を、彼が望んだのだ。

 メイはタオルを押さえながら、そっと出て行った。

 願わくば、彼に見つからないように。

 でも、そんなことは不可能である。

 ドアを開けた時、ガチャリと、それは律儀にも音を立ててくれて。

 音のせいで、カイトの視線が自分に注がれる。

 シャツを脱いだらしく、上半身裸の姿で。

 そのむきだしの上半身が、これからのことを連想させるようで、メイは胸を痛めた。

 あ……見ないで。

 とっさに、目を伏せてしまおうとしたけれども出来なくて、ただ彼を見てしまった。

 カイトも彼女を見ていた。

 しかし。

 予想とは外れた表情を、彼はしていた。

『え?』―― そんな風に、驚いた顔でメイを見ていたのである。

 ……?

 どういう意味なのか分からずに、これからどうしていいかも分からずに、メイはそのまま立ちつくしていた。

 髪から一しずくの水滴が床に落ちるまでの時間、そうしていた。

 ぽたっ。

「ばっ……バカ! 何てカッコしてやがんだ!」

 彼は、いきなり怒鳴って立ち上がった。

 ????

 カイトが何を言ったのか、本当はメイは全然理解していなかった。

 ただ、怒鳴られたことで身体が反射的に固まってしまう。

「え……でも……あの」

 何を彼女は間違ったのか―― とにかく、何か間違ったのだ。

 それは分かった。

 しかし、分かった時には状況は変わっていた。

 彼が怒った顔を、まっすぐそらすことなく彼女に向けて、大股で歩いてきたのである。
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