冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 クソッッ!

 カイトは、その視線に耐えきれなくなった。

 うめーに決まってんだろ!

 叫びだしたい気持ちは、心の中で回し車のように空回りをする。

 とてもじゃないが、言える言葉じゃなかったのだ。

 おめーの作るもんは、何でもうまいなんて――どうして、カイトに言うことが出来ようか。

 彼女が作ったということだけでも、既にすさまじい調味料なのだ。

 それだけでなく、基本もちゃんとおいしい料理なのだ。
 たとえ風情のない舌であったとしても、ちゃんと分かるくらいに。

 メイが、だから不安そうな顔で見つめる必要はないのだ。

 それをうまく伝えられない。

 素直な口を、子供の頃に近所のジャングルジムに忘れてきたのだ。

 今更、ジャングルジムに探しにいけなかった。

 プライドとか性格とかが、ジャングルジムを夜にしてしまっているのだ。

 真夜中の公園では、探し物は出来ない。

 たとえ外灯があっても、虫が集まるだけで精一杯のかよわい光では、ハンカチすら探せない。

 けれども、彼女は余りに心配そうだ。

 がーっっっっ!!!! そんな目で、見んな!

 心の中でわめきちらす。

 しかし、それが相手に通じるハズもなかった。

 うなりながら、椀をテーブルに戻す。

「うめぇ」

 仏頂面で、身体の中から絞り出した一言。

 もうこれ以上は、逆さまにして振り回されても出てこない。

 なのに。

 あんなに仏頂面で、本当においしいかどうかもナゾな口調で言ったというのに、メイには十分なのだ。

 嬉しそうに一つ微笑んで、ようやく自分の食事に取りかかる。
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